仏教の葬儀-宗派によって違うその意味とお葬式

わが国のお葬式の9割以上は仏教式(仏式)で行われています。
仏教での葬儀は、キリスト教の葬儀と同様に臨終の直後から始まり、その際に遺族・関係者が必ずすべきことが決まっています。そして、通夜-葬儀式・告別式-火葬とつづく葬儀の流れも、概ねは定式化はしています。

しかし、ひとくちに仏教式の葬儀と言っても、日本の伝統仏教にはいくつもの宗派があり、それぞれの宗派によって祭壇飾りや席の配置から作法、儀礼、そして読誦されるお経にも違いがあります。

以下では、日本仏教の伝統的宗派と、それぞれ葬儀の意義と特徴、葬送儀礼として通夜やお葬式で行われることの意味についてご案内します。

仏式葬儀では、宗派によって意義もすべきことも違っている

同じ仏教でも宗派によってお葬式に違いが表れるのは、それぞれの宗派の教義・宗旨によって、葬儀の意義や葬送の作法が異なっているからです。それは、その宗派が説く仏教的な世界観・死生観の違いと言ってもいいでしょう。
ですから、遺族となって仏式で葬儀をされる場合には、故人が帰依していた宗派、あるいは喪家としての檀那寺(檀家または門徒となっている寺院)が属す宗派によって葬儀をしなくてはなりません。

くわえて、その宗派における葬儀の意義づけや葬送の儀礼・作法が意味するところついてもある程度知っていると、通夜やお葬式の場にあって今目の前で何が行われているのかも分かり、故人を送る想いもより深いものになるのではないでしょうか。臨終の直後から、通夜、そしてお葬式と、故人のために為されるさまざまな儀礼や読誦されるお経には、宗派独自の仏教的な意味が持たされています。それらは主に導師を勤める僧侶によって為されますが、遺族や会葬者も僧侶に従って一緒に行います。

まれなケースですが、本来の檀那寺とは違う宗派でお葬式をしてしまったために、後でもう一度やり直すことになったという事例もあります。

主な仏教宗派-13宗56派

仏教は古代インドでブッダ(お釈迦様)の教えとして起こった宗教であることはよく知られ、日本には6世紀半ばに中国から伝わったとされています。中国における仏教は、大乗仏教(だいじょうぶっきょう)という古代インドの改革派仏教の流れを受け継いだもので、当時から多様な宗派が興っていました。日本に伝えられたのも、この大乗仏教としての中国諸宗派の仏教で、以後1500年、日本の仏教も各宗派を核として布教教化が重ねられ、今日に至っています。

現在の日本で伝統的な仏教宗派としては、主に次の各派があげられます。法相宗(ほっそうしゅう) ・単一宗派。
(大本山:興福寺薬師寺) 華厳宗(けごんしゅう) ・単一宗派。
(大本山:東大寺) 律宗(りっしゅう) ・単一宗派。
(総本山:唐招提寺、大本山:壬生寺) 天台宗(てんだいしゅう) ・次の3派に分かれています。
天台宗(総本山:延暦寺)、天台寺門宗(総本山:三井寺)、天台真盛宗(総本山:西教寺) 真言宗(しんごんしゅう) ・次の16派に分かれています。
東寺真言宗(総本山:東寺)、高野山真言宗(総本山:金剛峯寺)、真言宗善通寺派(総本山:善通寺)、真言宗醍醐寺派(総本山:醍醐寺)、真言宗御室派(総本山:仁和寺)、信貴山真言宗(総本山:朝護孫子寺)、真言宗中山寺派(大本山:中山寺)、真言宗須磨寺派(大本山:須磨寺)、真言宗大覚寺派(大本山:大覚寺)、真言宗泉涌寺派(総本山:泉涌寺)、真言宗山階派(大本山:勧修寺)、真言三宝宗(大本山:清荒神清澄寺)、新義真言宗(総本山:根来寺)、真言宗智山派智積院)、真言宗豊山派(総本山:長谷寺)、真言律宗(総本山:西大寺) 日蓮宗(にちれんしゅう) ・単一宗派。日蓮系宗派・教団とは区別されます。
(総本山:久遠寺、大本山・霊跡寺院:妙顕寺本圀寺池上本門寺誕生寺清澄寺)、本山・由緒寺院:本法寺、妙覚寺、立本寺、本満寺、頂妙寺、妙傳寺) 浄土宗(じょうどしゅう) ・次の5宗派に分かれています。
浄土宗(総本山:知恩院。「鎮西派」とも言われます。)、浄土宗捨世派(本山:一心院)、西山浄土宗(総本山:光明寺)、浄土宗西山禅林寺派(総本山:永観堂禅林寺)、浄土宗西山深草派(総本山:誓願寺浄土真宗(じょうどしんしゅう) ・次の10宗派に分かれています。
浄土真宗本願寺派(本山:西本願寺)、真宗大谷派(本山:東本願寺)、真宗高田派(本山:専修寺)、真宗佛光寺派(本山:佛光寺)、真宗興正派(本山:興正寺)、真宗木辺派(本山:錦織寺)、真宗出雲路派(本山:毫摂寺)、真宗誠照寺派(総本山:誠照寺)、真宗三門徒派(本山:専照寺)、真宗山元派(本山:證誠寺) 融通念佛宗(ゆうづうねんぶつしゅう) ・単一宗派。
(総本山:大念佛寺) 時宗(じしゅう) ・単一宗派。
(総本山:清浄光寺;遊行寺とも言う。) 曹洞宗(そうとうしゅう) ・単一宗派。
(大本山:永平寺、總持寺臨済宗(りんざいしゅう) ・次の14宗派に分かれています。
臨済宗建仁寺派(大本山:建仁寺)、臨済宗妙心寺派(大本山:妙心寺)、臨済宗東福寺派(大本山:東福寺)、臨済宗南禅寺派(大本山:南禅寺)、臨済宗建長寺派(大本山:建長寺)、臨済宗円覚寺派(大本山:円覚寺)、臨済宗大徳寺派(大本山:大徳寺)、臨済宗向嶽寺派(大本山:向嶽寺)、臨済宗天龍寺派(大本山:天龍寺)、臨済宗永源寺派(総本山:永源寺)、臨済宗方広寺派(大本山:方広寺)、臨済宗相国寺派(大本山:相国寺)、臨済宗佛通寺派(大本山:佛通寺)、臨済宗国泰寺派(大本山:国泰寺黄檗宗(おうばくしゅう) ・単一宗派。
(大本山:萬福寺

・法相宗、華厳宗、律宗は、奈良時代には政治にも影響を及ぼした南都六宗のうちの3宗派で、経典研究・教学を主としてきました。今日的な仏教宗派とは趣が異なり、葬儀は執り行いません。

・曹洞宗、臨済宗、黄檗宗は、坐禅を修行の基本に置く「禅宗」としても知られ、葬儀も共通するところが多くあります。ことに黄檗宗は、歴史的に臨済宗の1派とされてきたことから、宗派独立後も黄檗宗と臨済宗はつながりが強くあります。